1998年、モイセス・カウフマン(写真→)ら、劇団テクトニック・シアター・プロジェクトの10人のメンバーは、ワイオミング州ララミーにおもむき、住民200人にインタビューを行なった。人口2万7千ののどかな町、ララミーは、その少し前から、マスコミの注目の的となっていた。ワイオミング大学に通っていたゲイの学生が惨殺されたからである。カウフマンらは、このインタビューをもとに、住民たちの目から見た、被害者マシュー・シェパード殺害事件の経過とその後日談をまとめ上げた。
そうして上演された『ララミー・プロジェクト』は2000年、オフ・ブロードウェイ最大の話題作となった。近年ではピュリッツアー賞受賞作『ウイット』のヒットで知られるキャパ五百人弱のユニオン・スクエア・シアターは、今年も数か月に亘り満員となった。
ニューヨークの関係者は、日本版上演を計画するにあたり、演出家として坂手洋二を推薦した。『神々の国の首都』ニューヨーク他全米四都市ツアー、『くじらの墓標』のニューヨーク・キャストによるリーディングの成果、そしてACCのグラントによる1999年の坂手の三ヵ月間の留学でのニューヨーク演劇人との交流により、その特質が知られるようになっていたからである。ニューヨーク・キャストを招聘した燐光群『天皇と接吻』が日本で大きな反響を呼んだこと、燐光群+グッドフェローズによるオフ・ブロードウェイのオピー賞受賞作『ツー・ポイント・ファイヴ・ミニット・ライド』日本版上演(リサ・クロン作・坂手洋二演出・篠井英介主演)の成功のニュースも届いていた。
かくして、創作過程に独特の経緯を持ち、その日本版上演の動向が取り沙汰されていたこの話題作が、最もオリジナル版に近い形、すなわち「カンパニーによる上演」として、坂手洋二演出、<燐光群>によって上演されることになった。なお、名古屋から<プロジェクト・ナビ>の佳梯かこが客演する。
また、翻訳の常田景子が第八回湯浅芳子賞を受賞(『パウダー・ケグ』『ツー・ポイント・ファイヴ・ミニット・ライド』はその対象作品)。本作は受賞第一作となる。
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