演劇を始めて、今年 (2000年) で 15年になります。かつて、上手下手も分からぬまま、ただがむしゃらに突っ走っていた僕も、しかし、いろいろなことを知ってしまいました。いつの間にか、気がつけば、様々な大切なモノが技術にからめとられていく危険を感じます。
その昔、探検家たちの目は一斉に山の頂きに注がれていました。インドにおける地理学的探検のすぐれたオーガナイザーだったジョージ・エベレストは、彼の名前を地球上で最も高い山の頂きに残しました。しかし、そこでは、平野と山の間に横たわっている広大なジャングルは、単に踏破すべき障害物としての扱いしか受けませんでした。ところが今日では、神の行なった創造のうちでジャングルこそが、もっとも豊かで生き生きしていることに、僕たちは気づいています。現代の探検家は、もはや高峰を目指しません。彼らの目指すのは南アメリカであり、アフリカなのです。ジャングルを目指した彼らはそこで複雑にひだをおりこんだような多様性の世界にいきづいている秘蔵物をこまかく観察し、その世界を楽しみ、理解しようとつとめています。
キャリアのある人達と芝居を作れる、そんな環境に恵まれ続け、甘やかされているうち、いつのまにか、山頂をいきなり目指している自分に気づき、自己嫌悪に思わず身震いしてしまうことが多くなりました。僕にもどうやら、ジャングルに向かって一度退却して、その世界の豊かさと多様性を再度見直す事が必要になってきているようです。高い山の頂きとか、インテルサットに搭載されたカメラの位置とかから、森の全体像を鳥瞰してみせるようなやり方ではなく、ジャングルのひだにまぎれこみながら、その複雑な世界の成り立ちを記述してみせるようなやり方で今一度、森の中をうろついてみよう。そう考えて、僕は出発することにします、デタラメな地図をもって―――――。 |