語れなかった祖国、ふるさと、父母 
『カムサハムニダ』 製作発表会/青年劇場



 8月 28日、東京都庁内 「都議会レストラン百兆」 で 9月 13日より紀伊国屋ホール他に於いて公演される青年劇場の第 79回公演『カムサハムニダ』 の製作発表会が開かれ、各スタッフがそれぞれの立場で意見をのべた。

※カムサハムニダは韓国語で
「ありがとうございます」 の意。

◆製作・福島明夫氏 <本公演作品の製作の背景>

 「昨年より 21世紀を迎えるにあたって、20世紀の正と負の遺産を表わすことをテーマにしてきた当劇団ですが、今回は脚本家の瓜生さんのすすめで飯尾さんの原作で日本とアジアの歴史を描いた作品に決まりました。
 この作品の劇中場面の半分はソウルが舞台になっていることから林先生のお名前がどこからともなくあがり、今年になってからプロジェクトを組むことになりました。 通常こういった大きな企画には何らかの助成があるのですが、急遽決定したこともありそういったこともなしに製作に入りました。
 この作品を選んだ昨年、日韓関係はワールドカップを中心としたイメージが強かったのですが、最近の教科書問題や靖国参拝の問題などから別の側面が浮き彫りになりつつあります。 こういった状況でこの作品を公演することにより、新たな文化交流の場が生まれればという気持ちがあります。 公演スタッフも林先生に加えて韓国の俳優さん3 名の客演を依頼しての公演です。
 この 『カムサハムニダ』 という公演タイトルは、韓国語で 『ありがとう』という意味なのですが、原作 『ソウルの位牌』 からもうひとつ深い意味を掘り下げた題名にしたいと思って名付けました。 ひとつに飯尾さんが韓国で初めて覚えた言葉がこの 『ありがとう』 という言葉であったことと私たち日本人が韓国の人たちに対して、謝罪だけでなく、感謝の気持ちをも表わしたいという思いも込めました。
 この作品を通じて両国の関係をとらえなおしたいと思います。」

◆脚本・瓜生正美氏
 「原作者飯尾氏について少しご紹介しますと、中学四年までは自分を日本人だと思っていたところ、海軍受験の際に父が韓国籍であることが初めてわかります。 お父さんは当時まわりの人たちからは 「板妻に似ている」 といわれる美男子だったそうなので、日本人だと疑いもなく思っていたようです。海軍の試験には通らず、その後陸軍士官学校を経て航空士になります。
 この公演のために原作 『ソウルの位牌』 を中心に 「自決」 「海の向こうの血」 「鉦(しょう)」 「峠」 などいくつかの作品を脚色しました。ストーリーではなく、飯尾さんという一人の人間の生きざま、半生記を描きたかったのです。
 1979年、韓国の家族を位牌を持って訪ねるのですが、その際に強い反発心をぶつけてくる人もありました。 その人に対しても自分のおかれた状況を誠実に伝えて、また家族にも暖かく迎えられるわけですが、戦争そのものを描くのでなく、こうした 「ある一家族に起こった出来事」を描きながら当時の日本の植民地支配を表わしたいと思いました。」

◆演出・林英雄氏
 「私が小学校四年の時に終戦を迎えたのですが、そういった時代ですので小学校一年生から日本語を習い、またラジオでプロ野球中継を聞くことも好きだったので日本語を聞くことを覚えました。
 初めて日本に来たのは1983年のことで、その時に日本の演劇界の人たちと交流が始まりました。 88年には韓国の演出家を日本に招待するという企画で招かれ、2週間中に稽古をしながら 13もの公演を観るという毎日でした。 その最終日の懇談会で瓜生氏に出会いいろいろな話をしました。
 その年以来交流は毎年続き、95年には日本の代表をソウルに招待いたしました。 95年には金大中大統領と小渕首相との間で交わされた日韓文化交流会議のため韓国側の委員になっています。
 昨秋飯尾氏の作品を演出する話が出た際も、私は瓜生氏を尊敬しているので、どうあっても実現しますとお答えしました。 また青年劇場にも様式のあるすばらしい劇をするという印象がありましたので、20世紀の記念碑的価値を持ったこの作品を演出させてもらえるのは光栄だと思いお受けしました。
 国外での仕事は言葉をはじめとして、いろいろ苦労もありますし、昨今の日韓事情から何かと問題も出てきますが、こういう微妙なときだからこそ、こういった演劇をすることに意義があると思います。
 実際両国間の問題は芝居の中で交流することで超越しています。私たちは未来のために仕事をするべきでしょう。 この芝居で一人の人間を描くことによって日韓の過去ではなく、飯尾氏という歴史の中での人間の姿を描き、その中で自然に浮き出してくる歴史背景を観ていただければと思います。」


■公演日程=
 9月13日(木)〜23日(日) 新宿紀伊国屋ホール
          新宿駅東口徒歩3分 03−3354−0141
 9月25日(火) 府中の森芸術劇場ふるさとホール
          京王線東府中駅北口徒歩6分 042−335−6211
 9月27日(木) かめありリリオホール
          千代田線亀有駅南口徒歩1分 03−5680−2222
 9月29日(土) 吉祥寺前進座劇場
          吉祥寺駅南口徒歩13分 0422−49−0300

■問合せ=青年劇場   03−3352−6922
      〒160−0022 東京都新宿区新宿2−9−20 問川ビル4F

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