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近年、社会的に認知された歯科治療に『インプラント療法』があります。現在では歯科界でも広く適応され、多くの歯科大学にもインプラント診療科が設置されています。 海外では1900年代から研究が進められ、失ってしまった歯を何とか取り戻し食物をおいしく食べ、健康を回復すべく、さまざまな試みがなされてきました。その後、1960年代初頭に、スエーデンでオステオインテグレーションと言う概念が確率され。骨とチタンが強固に連結されることが判明しました。 当初、インプラント療法を日本に紹介し実践したのは、先進的な歯科開業医や一部の大学の先生が中心でした。そのために基礎実験等のデータ不足や経験不足などから一般臨床の現場では取り入れらることがあまりありませんでした。さらに現在とは異なり、その当時、日本で開発されたインプラントの中には骨との結合が強固に得られないものがあったため、予知性の高い予後ではありませんでした。そのために大学人から否定されてしまい、近年まで歯科大学でも口腔インプラント学の授業は行われていませんでした。 その後、多くの臨床医・大学人が研究し、診療に取り入れるようになり患者さんに喜ばれています。しかしながら、未だ、安易にインプラントを施術し、医療過誤を招いてしまうなど、モラルからかけ離れた診療料金を請求する歯科医もおり、患者さん側に否定的見解が生じる場合もあるようです。 インプラントは、歯を失ってしまった顎の骨の中に人工歯根を埋め込み、それに天然歯と同形の被せ物を行い、歯の代用とする治療方法です。従来の治療法ですと、固定式のブリッジにするために歯を失った部位の両側の歯を削って被せなければなりませんでした。これでは、抜けてしまった上にさらに、周りの歯の表面も失ってしまう、さらにはこの処置を行うにあたり、歯髄をも失いかねません、まさにダブルパンチ、トリプルパンチとなってしまいます。インプラント療法ですと人工歯根を埋め込むことにより、健全な歯を削らないですみます。さらに何本かの歯を失うと、義歯を入れて残りの歯にバネをかけなければならず、バネによって、せっかく残っている健全な歯も徐々に痛めつけてしまい抜歯に至り、しまいには総入れ歯になってしまうことにと言った悲しい現実がありました。多数歯におよぶ歯の欠損も人工歯根を埋め込むことにより、取り外しの入れ歯にしないですみます。咀嚼(そしゃく)能率の回復や審美的改善だけでなく、『入れ歯にしないですむ』ことによる患者さんの精神的な満足感も望めます。何にもましても、よく噛めることによって十分な消化機能を回復できるため、日々の健康を維持することができます。また、顎の骨が痩せていて入れ歯が合わない場合も人工歯根を利用して入れ歯のガタツキを防ぐことができます。 『顎の骨に埋め込む』というと大変な手術を想像してしまいそうですが、局所麻酔を用いて無痛下で行なうことができます。さらに皆さんが心配されるような術後の痛みや腫れも、正しい術式と清潔な手術環境下で行われることによって、抜歯と同じくらいかそれ以下です。最近、内臓外科領域でも手術侵襲を押さえた内視鏡手術が話題になっています。従来ですと入院し、開腹手術を行わねば不可能とされていた処置でも、内視鏡を用いて、通院にて処置を完了できるほど施術状況も進歩をとげてきました。それと同じように、インプラント治療においても、最新の技術を用いたものでは、切開して骨を露出して行うことなく負担の少ない施術も確率され、以前の方法に比べて、非常に楽で、痛みもなく、術後すぐに審美、咬合機能を回復できる夢の様な治療法も行えるようになりました。 しかしながら、現在は健康保険の適用外の自由診療扱いですので経済的負担は大きくなります。また、重症の糖尿病(軽度の糖尿病の場合は管理状況によっては可能)や循環器系疾患等の患者さんによってはインプラント療法の施術が行えない場合もあります。顎の骨の状態もインプラント療法の施術の適否の基準ですが、現在は術式の改善によりかなり適用範囲は多くなってきました。もちろん人工歯根も天然の歯と同じように『磨けているブラッシング』と『定期検診』は不可欠です。患者さんの心がけ次第で予後は左右されます。 歯周病は、インプラント療法にとっても大敵なのです。人工歯根は『咬む』ための道具です。十分な手入れをしてあげなければなりません。いずれにしましても、患者さんにとってのインプラント療法は経済的な負担と手術という二つの困難を乗り越えるわけですが、その先に広がる素晴らしい健康生活に向けての一つの選択肢となることでしょう。 これらの治療に当たっては、歯科医師に相談の上、十分にご理解されてから治療を受けられることをお勧めします。その前にまずは『御自分の歯』がまだあるかたは、定期的に歯科医院にて検診、清掃をしていただき、ご自分でも御手入れをしっかりなさって、大切にしてください。
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