「下北沢演劇祭」

区民上演グループB

 劇場の前までくると、思いもよらなかった長蛇の列。整理券を受け取ると50の文字。土曜日とはいえ、こんなにも大勢の客に驚かされた。きているお客さんはやはり演劇関係者なのだろう、開演を待ちながら口にする話題はかなりディープな芝居談義。出演者の知り合いも多いようだ。以前本多氏が出演した「オールドバンチ」の出演者の姿もみえた。
 キャパ80名ほどの小さな空間のなかに100名ほどの観客がびっちり。補助席をいくつも出しての観客対応にスタッフもばたばただ。通路が狭いうえに階段にも補助席を出してしまっていたため、緊急時や体調不良者などが出た場合に怖いなというほど。時間の短さに救われた、というほどの盛況ぶりだった。出演者がいろいろであるためか、客層も幅広い。白髪交じりの頭はもとより、大学生ほどの若い男女も多く見かけられる。

 この下北沢演劇祭、区民であれば誰でも参加ができる「区民上演グループ」が設けられている。これを機にアマチュアとして初舞台をふむ役者も多いようだ。今回観劇したのはその上演グループB、カラオケスナック音楽劇「みみなり横丁物語〜ザ・ミミナリ誕生編〜」。この芝居にも初舞台役者が二人いたが、歌って踊って、初めてとは思えない、堂々たる存在感を見せつけてくれた。
 なにより驚くのが、その区民の面々にまじって本多一夫氏が演じていることだ。下北沢演劇界のドンが、こうして皆とともに芝居をする。 出演者にとっても嬉しい限りだろう。

 作品はカラオケスナックを舞台にした一時間弱の物語。商店街対抗の歌謡大会にむけて対策を練る最中、お店で生まれた「みみ」。その誕生当日までのエピソードを、みみの曽祖父であり、亡くなったのちも店の客として彼女の前に現れる「しょうちゃんじいちゃん」と、その幼馴染「たけちゃん」の二人が振り返る形で目の前で再生されていくような、そんな構成になっていた。
 カラオケスナック音楽劇というだけあって、皆歌うわ踊るわ。役者魂をみせた王道のアイドルソングや渋い演歌、バイオリンの生演奏と盛りだくさん。本多氏も若さを爆発させ、振り付け付きでギンギラギンにさりげなくを歌い上げる。ミラーボールを反射する眩しい衣装が、意外なほど似合っていた。

 タイトルを聞いておやと思ったのが、「みみなり横丁」に「ザ・ミミナリ 」。スナック二階で劇場を作る工事をしているだとか、同じ街に劇場を二つつくるだといったセリフもあった。今回はシアター711での公演だったが、どことなく、というより皆はっきりと隣接する小劇場及び横丁を思い浮かべただろう。ここ下北沢にも昔、どこかで本当に起こっていたかもしれない心温まる賑やかなストーリーだった。
  

















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