“ムシ歯予防デー”記念執筆
「安全なインプラント治療」



 昨今インプラントのトラブルについての報道を目にすることが多くなりました。しかしインプラントによる治療法は本当に危険なものでしょうか? 失ってしまった天然歯の代わりにインプラントを用いることにより咀嚼(そしゃく)効率が回復し快適な食生活をエンジョイされている患者さんがほとんどだと思います。 ではなぜインプラントの不具合についての報道がなされるのでしょうか?   
 
倉本歯科医院院長
倉本弘樹
 インプラントの歴史をひもといてみると、古くはインカ帝国時代の遺跡から発見された顎骨の中に埋入されたサファイヤや紀元前のエジプトでも、象牙を埋め込んだ歯が発見されたり、古代ローマ時代には鉄製のインプラントが用いられていたり、多くの形跡を散見することができます。 これらから人類の歯に対する執着心、食物をよりよく噛みしめたいという思いを感じ取ることができます。
 チタン製近代インプラントの始まりは1952年整形外科医であるスウェーデンのブローネンマルク博士が偶然実験中にウサギの骨にチタンと骨が接触し取れないことを発見し、その後実証実験を重ね現在のインプラントの礎を築きあげました。 それまでは様々な材料によるものが試されましたがうまくゆきませんでした。 博士の発見以降、歯科インプラントは大きく進歩し現在に至っております。
 整形外科領域においてもチタン材は多く用いられ、現在では生体内で安定した材料と認知されております。 しかし、学問が進展する中様々な治療法が開発されました。 
 歯を抜いて即時にインプラントを埋入し即時に噛みあわせることができるなどの技術ですが、時間短縮を狙った治療法が脚光を浴びるようになり、歴史的に浅い技術がどんどん行なわれるようになるとともに失敗例も増加してきてしまったという、皮肉な結果を招くことになり、多くの失敗報道に結びつくようになったと考えられます。
 老舗の味といった伝統的料理屋さんが100年以上も多くの人々に信頼され愛されるようにインプラント治療においても、新しい技術ばかりを追い求めるのでなく、安全確実な伝統的手法を守り通す治療法を実践している場合、長期間、口腔内で健康に機能することが実証されております。
 インプラントは天然歯と異なり、虫歯になることはありませんが、天然歯より周囲組織である歯肉が口腔内細菌により感染をおこしやすいため、インプラント周囲組織炎を起こす場合があります。
 症例によって異なりますが、インプラントを受療された患者さんは1〜3ヶ月に一度の定期検診とインプラント周囲のおそうじが必要ですが、痛みを感じないと定期検診を忘れがちになり、数年たってしまう場合があります。そして、数年後、咬むと痛みを覚えたり、歯肉が腫れたりして異常に気がつき、おみえになります。
 軽度のインプラント周囲組織炎ですと、スケーリングやエアーフローを行い、患者さんご自身が清掃に留意して下さると治癒しますが、中程度以上の場合は細菌感染が進んでいるため、治療が必要になります。 治療法は、抗菌剤の服用、各種レーザー照射、光感作療法(これは、ある薬剤に特殊な波長のレーザーを照射し、活性酸素を発生させ、インプラント周囲のポケット内の細菌を死滅させる治療法)、インプラント周囲の薬液消毒などがあります。もちろん、患者さんご自身が今まで以上に口腔内清掃を精励されるのは言うに及びません。 早期に治療をして治癒した後に定期検診と充分な口腔内清掃をすれば、その後もインプラントを撤去することなく咬むことができます。 一般的にインプラント周囲組織炎が治癒しても失われた骨は再生しません。 骨造成法に準じた自家骨や骨補填材を使用した骨の再生療法もありますが、その予後は不確実です。手遅れになってしまい、骨の吸収が重度でインプラント自体がグラグラしている場合は残念ながら、インプラント自体を撤去しなければいけません。
 現在、何も自覚症状がなくても風邪や疲れ気味の時にインプラント周囲の歯肉に異常を感じたことがある方やインプラント治療をされて定期検診を怠っている方は、ご自身の健康のためにもすぐに定期検診を受診されることをお勧めします。
 












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