「地球のステージ」

 運命が変えた国・フィリピン

 フィリピンで今はなき「ゴミ捨ての山」で暮らしている子たちの笑顔が、日本でおもちゃやお菓子を買ってもらった子どもの笑顔よりも絶対に勝っている」
 医師で国際医療協力活動を展開している桑山紀彦さんはそのNGO活動に入るきっかけとなった動機を、昨2013年12月3日、下北沢タウンホール(東京都世田谷区)で開催された公開講演会「地球のステージ」(北沢間税会主催)の場で、当時の模様が映し出されるスクリーンを前にそう語った。

 フィリピンの首都マニラと言えば、海の街というイメージ。「飛行機が安くて行ける国だ」と思って出かけたにすぎないマニラで、案内役の新聞記者に連れて行かれたのがスモーキーマウンテンというそのゴミ捨ての山だった。しかも全てゴミでできている山の上に人が住んでいる。彼らの家もゴミでできていたから驚いた。ゴミの中から使えそうな板、釘、金槌、ガラスを拾ってきて自分たちの住む家を建てる。こんなふうになっても住めるのか。“人はたくましい”。
 「フィリピンは南の国で暖かいので生ごみの腐った臭いが鼻にきて、大変な所に人が住んでいるんだと思いました。」
 生ゴミの横に人が住んでいる。そんな情景を見たこともなかった桑山さんは思わず、
 「ああ、ここに生まれなくてよかった。日本に生まれて本当に良かった。そこには困っている人がたくさんいたと思いますが関わりたくない。早々にゴミの山を後にしたい、という感想を抱いてしまったのです。」

 ゴミの山の中に見た希望の光

 そんな中、ロイナスという当時9歳、まだ小学3年生の少女と出会う。彼女の父親は戦争で亡くなり、母と祖母と兄弟たちの7人暮らし。
 「彼女たちの住む家は、なんと堤防の穴の中。窓もなければドアもありません。子どもたちは通りで『お金ちょうだい』と物乞いする。祖母は一目で分かるほどひどい結膜炎に罹っていました。その時、こういう人たちが病院に行けない人たちなんだ、ということを目の当たりにし、その後のNGO活動に入る大きなきっかけとなりました。ゴミの山には何度も通いました。なぜ好き好んでゴミの山なんかに通っているんだと訝しがられましたが、僕はこの場所が大好きになったのです。なぜなら、このゴミの山の中に希望や光を見つけてしまったからです。まずそこには、実に高い子どもたちの笑い声がありました。」

 ゴミの山に暮らしているのになぜ笑えるのか。それには理由があった。
 「一つには子どもの数が多い。例えば兄弟。フィリピンの方は4、5人だったら当たり前、多いと7人も8人も兄弟がいます。子どもたちは数が多いので役割を決めてグループ作っています。役割をもってグループに入っているので、自分の居場所があると思えて安心するのです。だから笑顔なのだなって教えてもらいました。
 そんな子どもたちも、午前中は学校に行ったりしますが、午後からは主に2つの仕事をこなします。一つは、竹かごを背負ってゴミの山の中から売れそうなものを拾ってくる。ゴミ拾いの仕事です。例えばスーパーのレジ袋を100枚集めると1円くらいのペソというお金と替えてもらえます。
 もう一つの仕事は、水汲みです。遠く5キロも離れた水飲み場から汲んでくると、1缶15ペソになります。あの当時の日本円で10円くらいです。ですから、子どもたちは学校が終わると、ポリタンクを使って一日何度も水を運んでいました。例えば1日10本水を運べば、100円という大きなお金が手に入ります。夕方になって100円を手にした子どもたちが、一体何に使うのかと見ていると、お父さんのところに走っていってそのお金を差し出していました。『うっそー、自分で働いて自分でもらったお金なのに、自分の物買うんじゃないのか』って、びっくりして見ていたら、お父さんが数を数えて、『お前100円も稼いだのか、水10本も運んだことになるが、身体だいじょうぶか。今日はコロッケ4個余分に買えるな』とその子の頭をくしゃくしゃと撫でていました。
 あの時のその子の嬉しそうな笑顔を見たとき、日本でおもちゃやお菓子を買ってもらった子どもの笑顔よりも絶対に勝っていると思え、“光”を見つけた思いになったのです。」

 我慢力、創造力

 その子たちの笑顔がなんであんなに光っているのか。桑山さんは考えた。理由が2つ浮かび上がった。
 「一つ目は我慢できる力を持っているということ。我慢とは、人から『しなさい』と言われて嫌々することではなく、元は思いやりの気持ちから出てくるものだと思うのです。全国の小学校を回っていると、低学年の1、2年生もちゃんと話を聞いています。『あの人一生懸命話しているから、おしりも痛いけど我慢して聞かなきゃ』という思いやりの気持ちが出ているから我慢できているのだと思うのです。我慢できる人って、思いやりがあるから、やはり笑顔も美しくなる。子どもたちもそうだからかなと思いました。
 二つ目は創造の力。子どもたちの工夫の力はすごくて、捨てられているゴミを自分の宝物にしまうのです。どこかのボンボンが捨てたと思われる赤いバイクの乗り物。後ろのタイヤは外れて乗れなくなっていました。それでも、まだ小さい子が同じ直径の丸い木を見つけてきて真ん中に穴開け、針金を通して乗っていました。大人が見ると単なるゴミでも、子どもからすると、このゴミ、そのゴミ、あのゴミ、くっつけると宝物になるってことを知っているのです。自分なりのものができたら、自分にはこんな力があるのかと思えて嬉しくなりますよね。創造もまたゴミの山の中にある光だなと思えたものです。」
 人を思いやってできる我慢の力と、創造、工夫の力をいっぱい身につけていくと、いい笑顔になるのだろう。そう強調した。











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