「茨木のり子」展  観覧記

   
撮影:谷川俊太郎  世田谷文学館の茨木のり子展案内板 

 「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」。がつんと頭を殴られたかのような衝撃が走る台詞、詩人・茨木のり子の作品『自分の感受性くらい』である。

 茨木のり子は1926年生まれ。この他に『わたしが一番きれいだったとき』『歳月』などの作品や、50歳で習得した韓国語で韓国詩の翻訳もある。 
 この展示会では彼女の生前の書簡や、作品を集めたスクラップブック、ラジオドラマ音声など相当たる数のアーカイブが並べられていた。

 会場入るとすぐに、戦争の無情さ、ある種の滑稽さ、そしてそこから力強く生きていく意志を感じることのできる『わたしが一番きれいだったとき』が紹介されている。一方で、彼女の訃報を知った朝の様子を綴った谷川俊太郎の詩。親交があった彼との手紙も多く残されており、言葉を贈りあう大事さ、肉筆のよさというものを感じさせる。

 作品の数点の詩を読むだけでその飾らず思うがままを綴るシンプルな言葉の運びの美しさに魅了され、その世界に引き込まれつい読み入ってしまう、読まずにはおれない不思議な引力。
 一体どういう感性が花開かせたのかと出自を見てみると、その源は、戦中の混乱の中にあっても「女もまた特殊な資格を身につけて一人でも生き抜いてゆけるだけの力を持たねばならぬ」(はたちが敗戦、より)という父の、医師としての先見の明にあった。そんな父の望みで薬学の道を志したのだが、戯曲執筆に興味を持ち、言葉の勉強のつもりが詩の世界に足を踏み入れることになった。

 作品をみていると、その言葉の並べ方、選び方、詠む対象への想いまで、彼女のふんわりとした人間らしさ、やわらかで女性らしいたおやかさが香ってくる。彼女の作品は「品格で書かれている」とか「人格で書かれている」と評されるのがずいぶんと納得できる。
 その愛する人への想いを30年以上も書き溜めていたという『歳月』に収録された作品たちには特に感銘を覚える。どうしてこうも純粋で、まっすぐで、心ふるえる想いをストレートに紡ぎだせるのか。飾らずありのまま心の内を記したような言葉の美しさが、読んでいるこちらに淀みなく届いてきて、胸がきゅっとして、切なく、苦しくなるほどだ。

 「詩は感情の領分。感情の奥底から発したものでなければ他人の心に達することはない。――」といったような彼女の言葉があったのを思い出す。この表現で言うなら、茨木のり子の言葉たちはまさに「生きている詩」。そこに込められた想いやぬくもり、呼吸までもが一緒くたになって、読んでいる者にどーんと届いてくるようであった。  
                             (たぶち) 
「茨木のり子」展
会 期 ~2014年6月29日 (日)
休館日 月曜日(ただし5月5日は開館、5月7日は休館)
開館時間 10時~18時((展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
会 場 世田谷文学館2階展示室(世田谷区南烏山1-10-10)
アクセス ▼J京王線芦花公園駅南口から徒歩5分 ▼小田急線千歳船橋駅から京王バス(歳23系統「千歳烏山駅」行)「芦花恒春園」下車徒歩5分
観覧料
一般700円(560)、65歳以上・大学・高校生500円(400)、中学生以下無料、障害者 350円 (280)
*( ) 内は 20名以上の団体料金
※6月7日
(士)は地域催事による無料観覧日となります。
問合せ TEL:03-5374-9111 [ファックス]03-5374-9120

















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