「座敷じいじ」

第25回下北沢演劇祭 

 「おーい、メシはまだか」
 「もう食べたでしょ、」。
 カーテンコールの客席がどっと沸いた。
 下北沢演劇祭(2015年2月1日(日)~3月1日(日))、「座敷じいじ」。80歳を過ぎて本格的な役者業に挑戦している本多一夫さん(写真)の、終演後の挨拶で伝えた言葉が印象的だった。

 「これからは4人に一人が高齢者の時代。セリフが言いたくなければそれでいい、寝ててもいい。一言だけでも喋らせろというのなら、こんな手もある」。
 それが、冒頭のやりとりに繋がった。ただ家でじっとしているよりもハリが出るし、ボケ防止にもいい。お年寄りにもぜひこの演劇祭の舞台に立ってほしいが「お年寄りの役者が足りない」。前期高齢者、後期高齢者、そして自らを「超高齢者」と呼びながら、「演劇でお年寄りにも力を」との強いお気持ちが伝わってくる挨拶だった。

 下北沢演劇祭は今年で25年目。数々の劇場を誕生させ、下北沢を「演劇のまち」につくりあげた本多さんは、近年一般の区民とともに舞台に立っている。
今回演じたのはまさに作品タイトルの"座敷じいじ"。2月25日~3月1日の公演。

   
公演パンフレット
 会場となった「小劇場B1」は北沢タウンホール(北沢区民会館)地下に2014年の2月にオープンした、本多劇場グループの8番目の劇場。
 下北沢の小劇場、しかも地下となると、身狭な圧迫感のある空間とのイメージだった。しかし、小さな入り口を入っていくと、そこは想像したよりもずっと広い空間だった。舞台上・セットとなる旅館の一室がひらかれて客席と一体化しているからだろうか。小劇場独特の、「なんとなく視覚的に呼吸がしづらいような感覚」が全くなく、水中でも息が苦しくないような感覚だった。

 開演前の諸注意も本多さん演ずる座敷じいじの声。
 「最近の人間はスマートフォンなる電子機械をもっているようじゃが、」と、機器類の電源を切るアナウンス。場内空気がやわらぎ、開演前から客席の温度はちょうどよくあったまっていた。

 出演者については、年々区民の参加者が達者になっているという感じ。それぞれの持ち味なのか、皆が皆個性がありつつ愛らしいキャラクターに仕上がっていた。
 本多さんも、前作「モトイヌ」で大いに発揮され客席に愛されていた、役者としてのふんわりとした雰囲気が、また新たなキャラクターとして発揮されていた。新しい物事に挑戦していくこと。自分の年齢とありのままを受け入れた上で、それをむしろ強み・個性として活かすこと。
 「高齢者が希望に溢れハツラツと活躍できる場があるぞ。本多一夫をみてごらんよ」
 とその存在には頼もしさが伴なっていた。       (たぶち)

 












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