「東宝スタジオ展 映画=創造の現場」見学記

 
 エントランスに展示されたセットを見て「わー!」と歓声が上がった。カメラを向ける姿も多数、皆
 
 エントランスのゴジラ
思い思いの角度と位置取りで画面を覗き込んでいた。若い夫婦、学生風の男性、小さな子どもを連れたお父さんに映画好きと見えるおじさま。ベビーカーを押したお母さんとそのお母さん(おばあちゃん)の姿もある。当時ゴジラに親しんだ人、そのこども、いま新しくゴジラを好きな人、無類の映画好きたち、そして、美術展のファン。
 エントランスの「ゴジラ」撮影セットに始まり、日本映画の名だたる作品のポスター、舞台美術や衣装デザインの原画、ロケハン記録、資料写真の数々。まさに「お宝」としか言いようのないものたちが、次から次へと目に入ってくる。

 この展示の面白いところは、フォーカスを当てる対象が「作品そのもの」よりもむしろ、「映画づくりに携わる人々」で、その一人一人にスポットをあてて展示の軸としている点だ。重鎮たる映画監督たちをはじめ、映画音楽を担当した人、美術デザイン、衣装デザインを担当した人、俳優・女優と、華やかな映画の後ろ側に揃う様々な立場のプロ、職人たちを丁寧に紹介している。
「企業と美術」というテーマのもとで、はじめは写真科学研究所からはじまった「東宝の企業史」を追っている感じで作品をたどっていた。
 が、会場をまわりながら感じたのは、作品とともに浮かび上がってくるのが一企業の史、東宝とともに歩み関わってきた一人一人の人間の史であり、さらに日本という一国の史、その中で長い時間の間に移り変わってきた文化の史でもあった。
 例えば、戦中には軍の教育映画がつくられ、第二次世界大戦後の労働組合の希求が高まった時代には、東宝従業員組合の「東宝争議」が起こる。ゴジラは水爆実験の影響で復活した太古の巨大生物という設定であるが、映画「ゴジラ」が公開された1954年は、同じ年にマグロ漁船第五福竜丸がアメリカの水爆実験に巻き込まれた事件が起きている。東京オリンピックの開催時には記録映画がつくられ、「芸術か記録か」という論争も巻き起こる。当然のことかもしれないが、国あるいは時代の変化が、作られてきた映画をたどりながら確かに垣間見えていく。
 文化なら、前進座、三船敏郎、原節子、エノケン・ロッパに森繁久弥、淡路恵子、淡島千景、美空ひばり、池内淳子、大空真弓、浜美枝、吉永小百合…。映画を飾るスター達を辿れば、当然のごとく文化の流行も辿っていける。
 東宝がそれだけ一企業として長い歴史を持って存続してきたということ、日本全体に大きな影響力を持つ存在であったことがみてとれる。

 同時開催のコレクション展では、世田谷に活動拠点を置いた東宝スタジオゆかりの作家たちの作品が展示されている。
 美術セットのデザインを担う仕事人でありながら、一人の画家でもあるという東宝映画の美術監督として活動した久保一雄の油絵が印象的。映画セットという立体的なものを着想するのとは異なる視点を持っていた、と強く感じた。

▼「東宝スタジオ展 映画=創造の現場」は4/19(日)まで、同時開催のミュージアムコレクションⅢ「世田谷に住んだ東宝スタジオゆかりの作家たち」は4/12(日)まで。

■会場=世田谷美術館(世田谷区砧公園1-2)

■開館時間=10時-18時(入館は17時30分まで)

■休館日=毎月曜日

■入館料その他問合せ=03-3415-6011世田谷美術館









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