「スペインの彫刻家 フリオ・ゴンサレス」

 フリオ・ゴンサレスは、スペイン、バルセロナの彫刻家である。父が開いた金工職人の道で生計を立てるかたわらで、はじめは画家を志し、後に彫刻家という、芸術の道に生きた人である。手掛けた鉄や銅の彫刻で「溶接の技術を芸術へ昇華させた」のは「彼ならでは」だろう。

 本展示会場のなかへ進むとまず、公園内の景色がひろがり開放感があって眺めがよい緑の景色を目にする。目を向けた作品の視線延長先ののびやかな自然の、陽白く広いその空間にブロンズや鉄、銅の作品がぽつり、ぽつりと置かれていた。

 絵画と異なるのは、私たちが立つ位置、歩きながら向ける視線によって、作品の見え方が変わってくる、立体物の作品ならではといった点。作品を360度ぐるりと眺めると、目に入るその先の景色が変わってくる。差し込む光も変化して表情が変わる。窓の外の景色を考え合わせると、その日訪れる時間、天気によって印象が変わってくるかもしれない点である。
 その空間にある一点の作品『ダフネ』。展示内のキャプションによれば、1930年代の半ば以降、彼の作品創造の方向性は面で空間を囲むことと、線によって空間を構成することの二つのベクトルがみえる。この作品はその二つの方向性の統合を試みた代表作なのだそうだ。立つ位置を変え、見る距離を変えて眺めていると、単に二つの板をくっつけたように見えていたものが実は巧みに隙間をつくっているのに気がつく。また、窓に向かって立つ形で正面からダフネを眺めると、不思議、窓の向こうに悠とそびえる大木とその姿がなんとなく重なる。まるで模写したか?と思うほど。作品の展示位置にも心が砕かれているようだ。
 白い壁を背後に浮かびあがるキャプション文字も鑑賞する位置や距離で変わる。無機質な素材から造られているとは思えないほどの美しく可愛らしい一輪花三作品や、彫刻だけではなくアクセサリーの類もしかりである。
 これが、「表情の、見え方の変化」なのだろうと合点、面白い。自分の身体を通して作品を鑑賞するようないわば「肉感的感覚」なのだろうか。

 「想像力で鑑賞する作品」と特に感じたのが『「使途」と呼ばれる頭部』、『あごひげと口ひげ』だ。鑑賞者の想像力、補完力がかけあわされることで魅力を増す作品で、想像力さえあれば人はどんなものでも、世界でもみえてくるものだと思える。

 彼は晩年、戦争によって鉄彫刻をつくる物資が不足し、石膏像やドローイングに取り組んだのだが、再び鉄彫刻をつくること叶わずに、1942年、病に倒れこの世を去る。企画展の一番最後に掲げられていたのは、「幾世紀の昔、鉄の時代が始まった。美しいものがたくさん生まれたが、不幸にもその多くは武器だった。――今ようやく、この物質には、芸術家の平和な手によって叩かれ、鍛えられるための扉が、開かれるのだ」といった彼の言葉であった。
 奇しくも、第二次世界大戦が終結してから70年余が過ぎゆこうとしている今、鉄を打つ手が平和な手であることを、武器でなく芸術が生まれることを、願ってやまないフリオ・ゴンサレスのなき姿がみえる。

 展示開催期間は2016年1月31日まで。講演会や演劇、工作のワークショップなどの企画もある。
     (たぶち)

会場=世田谷美術館(世田谷区砧公園1~2)

開館時間=10時~18 時(入場は17時30分まで)

休館日、観覧料、交通、その他 詳細問合せ=TRL03・3415・6011(代表)
 

 












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