第27回下北沢演劇祭「カタツムリ寫眞館」

 
 恒例の下北沢演劇祭が2月末日まで開催され、世田谷区民上演グループは「劇」小劇場で「カタツムリ寫眞館」を演じた。 演出は本多劇場大岩正弘さん、本多劇場主本多一夫さんが特別出演した。

 三世代が同居する家族はみんなが出不精。 写真館を畳んで隠居した祖父を本多さんが演じる。その長女が亡くなったことで家族がそれぞれに引きこもりがちになった。 自分が一家の引きこもり一番の原因だと考える孫が、インターネットで出会った姉さん女房(どころか婆さん女房)との結婚を決意し、家を出るまでが面白おかしく描かれる。

 公演会場の「劇」小劇場の客席には「本多さんの顔がみたいねー」「私くらいの歳かなぁ」「役で出てくるみたいだよ」と、ここで初めて本多さんに対面しようとしていた人などで、約130席はぎっしり大入り。

 前年の作品(つるかめ大作戦)ではシニアキャストが各人の趣味やできることを取り入れ、役柄のエピソードに反映したりキャラクターづけしたりして楽しませたが、今回は、社会との関わりあいかた、「家族」の実は脆い一面が描かれていた。
 役者さんたちには拙さこそあれ、それを逆手に個々人の個性を生かすキャラクター付けがされていた。 化粧を施したおばさんぽいおじさん、少しボケを感じるおばあちゃん、冴えない父親などなど、誰もがお客さんから愛されるような役になれていた。 一方ではこの企画を通した区民俳優たちの成長も感じ、泣いたり笑ったり、客席も両手を震わせて笑う人など反応が良く、舞台に引き込まれていた。
 「家族って、1人が欠けると途端に変わるんだよなぁ」と思いあたった。

 その中で本多さんはどっしりとした落ち着きを醸し、セリフがなくてもそこに座っているだけで存在感を発揮する。 あまり喋り過ぎないからこそ、家族の中にいるおじいちゃんに説得力が増す。 合間に挟むセリフの“間”も良かった。
 「夫婦って賞味期限があるのよ。 いつまでも置いておくとだめになる。 長く保存しておけばいいってもんじゃない」といった作中の言葉があった。 もしかして人生も同じで、波風があって安定した状態はいつまで続くか分からない。ならば幾つになっても挑戦し続けてみよう、とも考えさせられる面もあった。

 この日は千秋楽ということで、その座組みも今日で解散。終演後の舞台上で「下北沢は憧れの舞台」と挨拶する人、特別な二カ月が幕を下ろし安堵と感謝、寂しさで声を震わす人など色々。ほっとお客さんに笑顔を向ける姿があたたかかった。
 演出の大岩さんは「本作は昨年12月から土日のみ、そして本番10日前からは平日の夜も合わせて臨んだ。引きこもり一家の話なので食べ物を買い込み、『稽古場に来たらどこにもいかない』などといった工夫もし稽古しました」とあいさつ。
 「前期高齢者、後期高齢者、そして末期高齢者まで、舞台に立つ経験をしてほしいという願いを持って、自らも舞台に立っている。来年は介護施設をテーマにした芝居をしたいがお年寄りのキャストが足りません。 このままではガラガラの介護施設の話になってしまう。 皆さん来年は同じ舞台に立ちましょう」との本多さんの挨拶で締め括った。

 今回は初舞台が3人、2回目という人が2人。 出演者が固定化しないで初舞台を経験する新たな区民上演メンバーを見られたことが嬉しかった。 今回から事前予約制、座席が大きく窮屈感がない、舞台空間も死角なく広々見渡せたことなど快適だった。
                                             (たぶち)










『マイソフトニュース』を他のメディア(雑誌等)にご案内下さる節は、当社までご連絡願います。
Copyright(c)1999-2017
Mysoft co. ltd. All Rights Reserved.