山へ!to the mountains」

 
 8月11日は、「山の日」ーー。いまだ耳慣れない祝日ですが、制定されてみるとたしかに「なぜ今まで海の日だけだったのか」と思うくらい、原風景に欠かせないのが「山」。

 世田谷文学館で開催中の「山へ!to the mountains」展では、山を愛して生きた人々がのこした作品や、彼らの生き様を紹介しています。新たな角度で「山」を再発見です。

 印象に残るのは白旗史朗、田淵行男、岡田紅陽らの山岳写真。
 白旗の撮る山の風景は雲と山の自然美そのまま、見つめて吸い込まれるようでした。写真はその一瞬を切り取ったものであるはずなのに、雲が目の前で流れ、風が吹き付け、湿ッ気も感じられるような気がしてくる。『墨絵の山 北アルプス槍ヶ岳から朝の常念岳』は、山と雲とがその淡い墨色と濃紺のグラデーションで織りなされ、夜明けの澄んだ空気、ひんやりした涼しさまで、実際に登頂して感じられたならなんと至福かと、思い知らされます。

 同じ写真家でも、田淵が好んで撮影したのは峰が多いようでした。岡田紅陽は富士山を撮ることをライフワークとし、「湖畔の春」という写真は五千円札・千円札の裏面に印字された逆さ富士山の基にまでなったほど。また、高山植物を研究した田辺和雄は、山とそこに咲く花々に関心を寄せ、植物・花の写真を多く残しました。山に惹かれる人たちはたくさんいても、それぞれその人が見て・触れて・捉えていた山の風景、惹きつけられた理由は様々です。

 文学では、文筆家で登山家でもあり「山の作家」として人気を博した深田久弥のこの一文。「感動的な素晴らしい景色は、易々と手の届くような所には置かれていない。最も輝かしいものは、最も困苦を要する所にある。それは人生によく似ている」。山を愛し、登山を重ねている体験があるからこその言葉。彼はまた、「自然に洗われた眼は澄んで、下品な彩りなど好まなくなる」とも言及し、さきの、白旗の写真を目にした時の感覚を、再現したようでした。

 「山を愛する人は都会を忌避し、喧騒から逃れるように惹きつけられた」のではない、というのが吉阪隆正。「もしも本当に山を愛し、山に教えられ、山と一つになるならば、それは都会とも決して無縁ではなく、都会を愛し、都会に教えられ、都会と一つになれる。そうしたら、山も荒らされないように、都会も荒らされずにすみ、この世の中は楽しみが増すだろうにと思う」。
 吉阪隆正は近代建築の巨匠、ル・コルビジェがとった日本人弟子3人のうちの一人。幼少期の体験をもとに、登山や冒険の数々を経験した建築家だけあって、標高の高い山の厳しい環境下でも強固で安全な建築物を研究。自然の厳しさを誰よりも肌で感じ、上手に寄り添って、厳しさの中で揺るがない人工物を手がけてきたことがにじみ出ています。

 昨年2016年に亡くなった、女性初のエベレスト登頂者の田部井淳子さんの登山具も展示され、クイズパネルにスタンプラリー、身体ワークショップなどの関連企画も充実しています。

 9月18日(月)まで世田谷文学館(03-5374・9111世田谷区南烏山1の10の10)。
 

http://www.setabun.or.jp/









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