3月17日に新型ロマンスカー・GSE(70000形)がデビューするのに先立ち、2月23日午前9時半よりプレスを対象とした試乗会が行われた。
喜多見電車基地を出発し、一度唐木田車庫まで行き、梅が丘駅までゆっくり時間をかけて戻ってくるというおよそ3時間ほどの試乗だ。
乗車してまず最初に感じたのは、「まるでホテルのよう」な空間である。外観の赤いローズバーミリオンカラーとは対照的に落ち着いたトーンの内装、広々とした車内、高い天井、洗練されたデザイン、ふかふかのクッションフロア、そして何より驚くのが大きな連続した窓。今自分が列車に乗っていることを忘れさせてしまうほどの開放感に早くもワクワクしてくる。
そこには徹底した新型特急へのこだわり、計算しつくされた高い技術力とデザイン力があった。
|
外観 |
その一つが最も時間をかけたという座席、シートだ。
400席というシート数を確保しつつ、座り幅にゆとりをもたせ、また車内が広く見えるよう極限まで背を薄くしたシート。確かに見た目はかなり薄いように見えるが、座ると身体が背もたれにフィットし、首や腰に負担を感じることなく快適に座ることができた。
肘掛部に収納されている折り畳みテーブルはやや小さめではあるが、耐荷重は約10キログラム、コンセントもついているので電池切れの心配せずにPCやタブレット等で一仕事できるのは嬉しい。
座って正面を見ると、シートの背面に傘や書類などがコンパクトに収納できるスペースとフックが設けられていて、鞄や手荷物、コートなどもかけられる便利な仕様になっている。シート下には機内持ち込みサイズのキャリーバッグが置けるロマンスカー初のスペースがあり、荷物の多い旅行者にも最適だ。更に上を見上げると、ホワイト系の人工大理石とガラス面で構成されたスタイリッシュな荷棚がある(先頭車両を除く)。これは、閉塞感をなくすため、どうしても視界に入ってしまう荷棚を「雲が浮かんでいるよう」に見せる工夫なのだという。確かに荷棚があることに気がつかないくらいにデザインの一部と化していて視界の邪魔にならない。このように美しく創意工夫された収納の充実により、誰もがゆったりと快適に座ることができるのは嬉しい限りだ。
|
中間車両 |
もう1点シートに座って目を引いたのは、シート上部にある「握り」と呼ばれる銀の棒状のもの。立ち上がりや歩行の際につかまって補助する物で、よく見るとサイドにさりげなく点字の座席番号が記されている。このようなデザイン性にも機能性にも凝っているアート的な「握り」は極めて珍しい。
また車内は高音質スピーカーを設置しているため、車内アナウンスがクリアで聞きとりやすく、聴力に不安のある高齢者にも安心だ。
バリアフリーなのはもちろん、GSEは電動車椅子も対応可能となっていて、4号車に専用スペース、そして広々としたデッキに車椅子でも利用できる「ゆったりトイレ」を設置。狭い車内トイレのイメージを一掃している。
また注目を集めていたのは、新しく設置された「多目的室」。これは授乳や気分の悪くなった乗客のための「個室」で、フィッティングルームにもなるという。
これだけの充実した設備を持つ、通勤にも利用できる特急列車は世界的にも珍しいのではないだろうか。
外国人旅行客にもまた手厚い。4号車を除く全ての車両にラゲージスペースがあり、大きな荷物にも対応可能。また全シート背面にあるQRコードを読み取れば、フリーWiFiで8か国の言語に対応した「ロマンスカーリンク」が利用でき、現在地や沿線情報、ライブ展望映像などが楽しめる。
このようにGSEは、さまざまな乗客に対する気配りや「おもなしの心」を感じるホスピタリティ性の高い車両となっている。
|
展望席 |
そして、GSE最大の特徴はなんといっても眺望。特に展望席のある先頭車両は「これまでにない眺望の展望席」というだけあって、体験したことのないようなダイナミックな眺望が目に飛び込んでくる。先頭車両はあえて荷棚を設けず、まるで風景の中に溶け込んだような錯覚を起こし、景色との一体感を存分に楽しむことができる。
今後GSEの展望席は相当な人気が予測されるため、デビュー後しばらくは予約も難しそうだが、展望席以外の全ての窓も従来のものよりもかなり大きいので、どの座席からも展望席感覚で十分に眺望を楽しむことができる。このクオリティなら特急料金として相当にリーズナブルで納得がいくと思う。
素晴らしい眺望と座り心地の良いシートに高いホスピタリティ性のGSE、これはもはや「動く展望ホテル」と言っても過言ではないだろう。
(渡辺啓子)
|