下谷龍泉寺町転居125年記念企画展
「ゆく雲」
の世界と一葉の紡いだ手紙

~ 一葉名作シリーズPart.5 ~

 
一葉記念館 入口 

 下町の雰囲気が残る閑静な住宅街の中にある樋口一葉記念館。記念館の目の前には一葉記念公園もあり、のどかな空気が漂っていて、外観は近代的でありながら部分的に明治時代を彷彿させるような柵のようなデザインが施されている。

 「ゆく雲」は一葉の晩年の作品で、作中には男性が意中の女性へ手紙を書き続けるも、心変わりしてしまい手紙の内容が挨拶程度になってしまったという、人の気持ちの移ろいが描かれている。
 人と人の気持ちを繋げるためのコミュニケーションの手段である手紙は、自身の生活にも欠かせないものであったようだ。

 一葉から送られた手紙は見つかっているだけでも100通はあるとされている。親族はもちろんのこと、仕事に関わる人々にも頻繁に手紙をしたためていたようだ。
 親族には体の心配をした内容だったり、当時駄菓子屋を経営していた一葉が借金の返済について仲を取りもってほしいという内容であったり、日常が垣間見れる。

 14歳の頃に入門した歌塾「萩の舎」で培った歌や古典文学に影響されたような、美しい言い回しや丁寧な文章のおかげで「通信書簡文」という仕事にも繋がっている。
 「日用百科全書」という、冠婚葬祭のマナーを一般的に広く広める本は、この本の手紙版といえる。手紙にまつわる作法や例文や彼女からのアドバイスが書かれている。

 親族や仕事仲間だけではなく、恋人へもその気持ちを手紙に残している。

 小説の師でもあり恋仲でもあった半井桃水への手紙は、一葉の気持ちが溢れ出ている。まるで、和歌の恋の歌のような趣がある。丁寧で知的な文章の奥底に複雑な心情が含まれている。
 当時は女性から男性に対して気持ちを打ち明けるという事は一般的ではなかった。熱い想いを手紙へしたためる一葉の情熱は常識というものの前には屈しなかった。
 その後は桃水と絶交をしてしまい、それを糧に一層小説の世界へ没頭した。困窮にも耐え抜き、病の中執筆したり、困難には平伏さない一葉の強さは作品の登場人物の女性像そのものだ。

 一葉の作品には、一葉自身の恋模様や、経営困難な駄菓子屋の日常、そこで人間観察をして感じ取ったこと、身近な人物をモデルにしたりすることで、リアルな人間模様が作品に反映されて人々に共感や刺激を与えていったのだろう。

 一葉にとって「手紙」というものは小説を書くのと同じことだったのではないか。言葉を選び抜き、人に伝える事に手を抜かず、自身の気持ちにも嘘をつかない。彼女にとって文章を書く事は生きる事だ。短命な中で燃えるように文字を書いた一葉の情熱は、今もなお後世に伝わり続けている。            *                                      (西川)
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会 期 2018年6月24日 (日)
 休館日 月曜日(祝休日は開館、翌平日休館) ※5月1日(火)は休館
開演時間 9時~16時30分(最終入館16時)
会 場 一葉記念館 展示室2(台東区竜泉3丁目18番4号)
アクセス 地下鉄:日比谷線「三ノ輪」駅 徒歩10分 他
入館料
一般300円(200円)、小・中・高校生100円(50円) ※( )内は20名以上の団体料金
問合せ 一葉記念館ー〔TEL:(03)3873-0004

















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